appendix 4

No.55

マクラレンとNFB


 

ノーマン・マクラレンについて

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カナダNFBでアニメーション部門を率い、数々のユニークな短編アニメーションを制作して、世界中の若いアニメーターに影響を与えたノーマン・マクラレン(Noman McLaren 1914 - 1987)は、フィルムというメディアのメカニカルな特性(「長い帯状の面に並んだフレームを等間隔で次々とスクリーンに映し出す事で動く映像が作られる」「フレームの脇に帯状のサウンドトラックがあり透過する光の大きさと点滅の間隔によって音の強弱や高低がきまる」「撮影されたフィルムを現像工程でのオプティカル合成で多重露光ができる」など‥)を利用した様々な実験的な試みを行い、ユニークな短編アニメーションを制作してきました。
それは映画という完成されたメカニズムを使ってストーリーを語る一般的なアニメーションとは全く異なるアプローチで、映像メディアの可能性を大きく広げた活動だったと言えます。
また、アニメーションに対する自由な発想の彼のもとで、多くの作家による様々な作風の作品も生まれました。
ここでは、技法の異なる彼の作品のいくつかと、NFBで同時代に活躍した他の作家の作品も紹介したいと思います。

カナダNFBについて

カナダ国立映画局(NFB: National Film Board of Canada)は、カナダ連邦政府によって1939年に設立された公的な映画制作機関です。特にドキュメンタリー映画や短編アニメーション作品で国内外で高く評価されています。カナダは多民族国家で、NFBは英語圏とフランス語圏の文化や先住民族の文化を反映した優れた映像作品を数多く制作し、それは多様性を包摂するカナダの自由な雰囲気を内外にアピールしています。
1941年に局長に就任したドキュメンタリー監督・プロデューサー・理論家のジョン・グリアソン(John Grierson, 1898年 – 1972年)は、映画を社会的に影響力のある教育的なメディアと考えていました。グリアソンに見出されたマクラレンはNFBのアニメーション部門の創設を任され、グリアソンの思想に共感しつつ、自由で創造的なアニメーションの制作環境を築きました。

マクラレンの作品より

  • 『色彩幻想(Begone Dull care)』(共同監督;E.ランバート)1949年

  • 『隣人(Neighbours)』1952年

  • 『灰色のめんどり (La Poulette Grise)』1947年

  • 『算数遊び(Rythmetic)』(共同監督;E.ランバート)1956年

  • 『垂直線(Lines Vertical)』(共同監督;E.ランバート)1960年

  • 『モザイク(Mosaic)』(共同監督;E.ランバート)1965年

  • 『パ・ドゥ・ドゥ(Pas de deux)』1968年

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「色彩幻想」

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ダイレクト・ペインティング技法による作品で、フィルムに直接描かれた抽象アニメーションです。
この技法の最初の作品は1965年にレン・ライ(Len Lye)が、イギリスの郵政省のために作った『カラー・ボックス(A Colour Box)』(No.09 「ダイレクト・ペインティングについて」参照)だとされていますが、マクラレンはその技法をさらに突き詰めて、この「過去のつまらぬ気がかり」のほか、「垂直線」や「モザイク」など、フィルムというメディアの特性を生かした独特の作品を生み出しています。
この作品は同僚のイブリン・ランバートとの共同監督作品で、ジャズ・ピアニスト、オスカー・ピーターソン(Oscar Peterson)の軽快な曲に合わせて、様々な色の線や形が踊るような賑やかなイメージが展開します。
ジャズの演奏に完全にシンクロした、アニメーションならではの動く抽象絵画といった趣があります。
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ダイレクト・ペインティング技法による制作で、フィルムに直接ペインティングするマクラレン
「ブリンキティ・ブランク」
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ダイレクト・ペインティングでのその他の興味深い作品として、「ブリンキティ・ブランク(Blinkity Blank)」1955年があります。
これはフィルムを直接引っ掻いて作画する技法で制作されています。黒い画面に一瞬現れるイメージが音響効果とともに戯れるような楽しい作品です。
自身で制作したダイレクト・ペインティング用の作画装置を使って直接フィルムに作画するマクラレン

NFBの他の作家の作品より

  • 『三角形のダンス(Notes on a Triangle)』レネ・ジョドワン 1966年

  • 『欲張りブルージェイ(The Hoarder)』エブリン・ランバート 1969年

  • 『太陽と月のお話(How Death Came to Earth)』イシュ・パテル 1971年

  • 『がちょうと結婚したフクロウ(The Owl Who Married a Goose)』キャロライン・リーフ 1974年

  • 『砂の城(The Sand Castle)』コ・ホードマン 1977年

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「三角形のダンス」

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1961年にジョドワンによって制作された前作「Dance Squared」も、カントリー&ウェスタン調の軽快な音楽に乗って正方形が分割され、組み合わさって様々な形が現れる幾何学的な作品でした。
その5年後に作られた「三角形のダンス 」は、さらに洗練され、優雅な音楽のリズムに合わせて三角形が踊るように組み合わされ、幾何学の不思議さを驚きをもって伝えています。
複数の幾何形態が同時に規則正しく動きながら、ゆっくり前方に迫ってくるズームシーンなど、現在のコンピュータを使えば比較的容易に作れますが、当時の切り抜き技法で一コマずつ撮影していくのは、大変な準備と労力・忍耐力を必要としたはずです。
レネ・ジョドワン(René Jodoin)
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1943年、レネ・ジョドワンは、アニメーション部門を統括していたマクラレンによってNFB に採用され、以来マクラレンとともに活動し、監督、プロデューサーとしてNFBでの革新的なアニメーション制作に大いに貢献しました。
1966年、NFBのフランス制作部門内にアニメーション・スタジオを設立してからは、多くの若手作家を育成し、NFBからは数多くのユニークなアニメーションが生まれました。
アニメーション制作へのコンピューター導入にも尽力し、ピーター・フォルデスの「ハンガー」(No.06 コンピュータを介在させたアニメーション 参照)でもプロデューサーを務めています。
「Rectangle and Rectangles」1985年
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ジョドワン自身の作品は、幾何学的な形状や時間の流れといった実験的なテーマに焦点を当てたものが多く、この作品もそのひとつです。
これはコンピュータを用いた作品で、明度や彩度が異なる画像を交互に表示して点滅させ、映像独特の効果を得るものです。たとえば大きく明度や彩度が異なる点滅では形の輪郭が浮き出て、均一の色面にもかかわらず模様のようなものが現れます。
※ ちなみに、同じくフリッカー現象を使った作品はジョドワンが育てた作家ピエール・エベール(Pierre Hébert)による「Around Perception」1968年という作品もあります
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