第1章 アニメーションの原理

No.11

切り抜きアニメーションと半立体アニメーションについて


 

切り抜きアニメーション

切り抜き(Cut-Out)アニメーションは、一枚一枚描かれた一連の画像を次々に撮影するペーパー・アニメーションやセル・アニメーションと違って、動かしたいキャラクターのパーツを分解して用意しておき、それらを少しずつ動かしたり、一部のパーツを取り替えたりしながら、1コマずつ撮影していく技法です。
この技法は、限られたパーツを平面上で動かしていくため制約の多い技法ですが、逆にその制約の中で画面や動きを工夫することで、独特の面白さが出てくる可能性があります。
ここでは切り抜き技法の例として、エブリン・ランバートの技法に習った習作「残酷な鳥」と、日本を代表する人形アニメーションの巨匠、川本喜八郎が切り抜き技法に臨んだ異色作「詩人の生涯」、フランスで、独特の詩的なアニメーションを作り続けたフランソワ・ラギオニーの初期の作品「お嬢さんとチェロ弾き」をご紹介します。
下のタイトルをクリックしてお選びください。

・『残酷な鳥 - 未完成』 西本企良 1976年

・『詩人の生涯』 川本喜八郎 1974年

・『お嬢さんとチェロ弾き』ジャン=フランソワ・ラギオニー  1965年

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「残酷な鳥 - 未完成」

Image
この作品は、切り抜き(カットアウト)の技法を研究するために、私(西本)が、武蔵野美術大学助手時代に、16ミリフィルムで制作した試作アニメーションです。
当時、カナダNFB(カナダ国立映画局)のエブリン・ランバートの作品を、ヴュアーを使ってフレーム単位で分析し、その造形手法に習って独自の内容で作ったもので、私が初めて手がけた切り抜きアニメーションとなりました。
タイムシート例:
このアニメーションを撮影するために作った簡単なタイムシートです。
鳥の動きと蝿の動きをあらかじめ計画し、コマ撮りする度にチェックを入れていきました。

半立体アニメーション&ペインティング・アニメーション

フレームごとに作画しながら撮影していく技法は、アニメーション映画黎明期からあり、当初は描いては消せる黒板にチョークで描いたものでした。(No.03 アニメーション映画の黎明期 「愉快な百面相」参照)
ここでは、撮影台の上に砂や粘土などの変形しやすい素材を乗せて、素材がわかる形で、少しずつ形を変えて動かしながらコマ撮りしていく手法を、半立体アニメーションと言っています。
また素材による立体感は感じられず、平面的な画面を描き変えながら撮影する技法をペインティング・アニメーションとしています。
どちらも、カメラの下で画像を変化させながらコマ撮りしていくという意味で、切り抜き技法に準じていますが、素材による独特の存在感が現れ、メタモルフォーゼなどの不思議な動きが可能となります。
(ペインティング・アニメーション例として、No.55「マクラレンとNFB」で紹介しているキャロライン・リーフの作品もぜひご覧ください。)
ここでは、素材としてビーズ玉を使ったイシュ・パテルの『ビード・ゲーム』と、粘土を使ったエリオット・ノリスの「The Fable of He and She」を取り上げています。
下のタイトルをクリックしてお選びください。  

・『ビード・ゲーム』イシュ・パテル 1977年

・『The Fable of He and She』エリオット・ノイス Jr. 1974年

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「ビード・ゲーム」

インド出身で、カナダのNFBで実験的な技法の作品を制作したイシュ・パテル(Ishu Patel)の、ビーズ玉を素材にしたアニメーションです。
冒頭、黒い背景にひとつのビーズが現れ、打楽器の音に合わせて、細胞分裂のように増えていきます。
増殖したビーズで様々な生き物が作られていき、それらは互いに食べては食べられるという争いを繰り返します。
進化の歴史のメタファーをリズミカルな音楽に乗せて描き、破滅に至る闘争の危うさを訴えています。
カラフルなビーズの特性を生かした演出が印象的です。

◆ パテルによるその他の作品例 ◆

・「死後の世界(Afterl-ife)」1979年

この作品が制作された当時、医師のエリザベス・キューブラー=ロスと、医師で心理学者のレイモンド・ムーディが数年前に相次いで出版した著書で”臨死体験”が話題になっていました。
このストーリーも、ベッドで死に直面した老人が、死後の世界に入って不思議な空間をさまよったのち、新たな光の世界へ向かって旅立って行きます。
撮影台の上で、色のついた粘土を削って作られた画面を強い透過光で撮影する技法で、鮮やかな光と闇を表現しています。


※下記URLをクリックすると新規タブでYouTubeのページが開きます。
https://youtu.be/e5Xl9G-HPdA

2DCGアニメーション

近年コンピュータ技術の発展に伴い、リアルな3DCGアニメーションが比較的簡単に作られるようになりましたが、あえて平面のアニメーションにコンピュータを導入して、より精緻な動きやリピート表現、モーフィング(変形)などの、コンピュータの利点を生かしながら、2Dならではの視覚的魅力にあふれた作品も生まれています。
ここでは、ロシアの作家オレグ・ウジノフの「ジハルカ」とアメリカのニーナ・ペイリーによる長編アニメーション・ミュージカル「セーデル・マゾヒズム」をご紹介します。

※ 残念ながら「セーデル・マゾヒズム」は、リンクしてこのページで観ていただくことができないため直接YouTubeのページを開いてごらんください。
下記URLをクリックすると新規タブで開きます。
「セーデル・マゾヒズム(Seder-Masochism)」2018年  https://youtu.be/E7Yk59fZZ0I

・『ジハルカ』オレグ・ウジノフ 2006年

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「ジハルカ」

ロシアのアニメーション監督、オレグ・ウジノフ(Oleg Uzhinov)の作品で、ロシア、ウラル地方の民話をもとにした2DCGの切り抜きアニメーション。
おなかを空かしたキツネが、ジハルカという元気な少女を誘拐して食べようとする物語です。
キツネは、少女と一緒に暮らしているネコとスズメの留守をねらって、いろいろアタックしますが、なかなか上手くいかず、惨めな結果に終わります。
この、捕食者がいろいろ仕掛けるにもかかわらず、ことごとく失敗してさんざんな目にあう物語は、アメリカのギャグ・アニメーション「ロードランナーとコヨーテ」を連想させます。
しかしこの作品は、アメリカ製ギャグ・アニメーションのように乾いた笑いではなく、切り抜き技法を用いたユーモラスな演出で、お転婆で楽天的な少女と、ずるいけれども憎めない哀れなキツネの個性が際立ち、親しみのある、おおらかな笑いを誘います。

2008年 第12回広島国際アニメーションフェスティバル  国際審査員特別賞受賞

2007年 オタワ国際アニメーションフェスティバル 子ども向け短編アニメーション最優秀賞
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