第2章 タイミング技法

No.17

距離感の表現


距離感の表現

 

二次元平面上で対象物の距離や位置を感じさせる技法として、空気遠近法や線遠近法、色彩遠近法、上下遠近法などの技法があるようです。また重なり具合も物の前後を感じさせる大事な要素です。
私たちは様々な情報を得て距離感を判断していますが、たぶん最も一般的で強く感覚に訴えるものは線遠近法です。
ここではノーマン・マクラレンとレネ・ジョドワンの作品「球(Sheres)」の技法に倣(なら)って作成した、大きさや移動距離を変えることで奥行きを強く感じさせるアニメーションと、私が度々利用していた新幹線の車窓からの風景を紹介したいと思います。

切り抜き技法での空間表現例

 

線遠近法に基づいた方法で大きさの異なるキャラクターを多数用意し、それを次々に置き換えることで遠くから近づいてくる表現をしたり、一列に並んだキャラクターのそれぞれの動く速度を、手前は速く遠くは遅く移動させることで奥行きの深さを表すことができます。
ここでは「奥から手前への移動」「上下の移動」「左右の移動」を通して、形の大きさと移動距離による空間表現をご覧いただきます。

         

新幹線からの車窓風景(富士市付近)

遠近感を感じる例として、私が帰省時に撮影した新幹線からの車窓風景を載せています。 高速で走る新幹線の車窓風景は、遠くの物と近くの物の移動速度の差が大きく、空間の広がりが強く感じられます。
場所は、下り新幹線 静岡県富士市あたりです。
※ YouTubeにアップした映像にリンクさせて表示しています。

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「球(Sheres)」について

「球(Sheres)」1969年は、ノーマン・マクラレンがレネ・ジョドワンとの共同監督で制作した切り抜き(Cut-out)技法の短編アニメーションです。
このアニメーションは、切り抜いた円形の紙に陰影をつけて球体らしく見せたものを、様々な大きさで用意しておき、位置を変えたり大きさの違う円に置き換えたりして撮影しています。
平面のアニメーションですが、3DCGのような奥行きのある不思議な空間を作り出しています。 球体の計算された幾何学的な動きが、カナダのピアニスト、グレン・グールドが奏でるバッハの曲に非常にマッチしています。

※ このムービーはYouTubeでご覧いただけます。下記URLをクリックすると別ウィンドウが開きます。

・『Spheres』 ノーマン・マクラレン、レネ・ジョドワン 1969年

「球(Sheres)」制作風景
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絵画における線遠近法の逸脱

デルヴォーキリコエッシャーにおける、意図的に遠近法を逸脱させて不思議な空間を作っている例を紹介します。
下記矢印をクリックすると画像が切り替わります。

デルヴォー「こだま」 1943年

ポール・デルヴォー(Paul Delvaux)はベルギーを代表する画家の一人で、シュールレアリストとして位置づけられることも多い人物ですが、本人は否定しているようです。
「私は現実をある種の『夢』として描き出そうとしてきました。事物が本物らしい様相を保ちながらも詩的な意味を帯びている、そんな夢として。作品は、登場する事物の全てが必然性を持った虚構の世界となるのです。」『ポール・デルヴォー展―夢をめぐる旅―』図録、2012年)

ここに紹介した「こだま(L'écho)」は、夜の静けさの中、通りを歩く3人の女性が描かれ、夢のような神秘的なシーンを描いています。
この凍りついたような同じポーズの女性たちを目で追いかけ、古代の建物が並ぶ不思議な空間を味わうのは、絵画ならではの楽しみ方ですが、3人の女性の大きさに違和感を感じました。
背景の建築物や道路はかなり厳密な線遠近法で描かれていますが、女性たちの大きさがそれに沿っていないように見えます。後方の女性たちが極端に小さく描かれているようで、それが空間の広がりを強調しているのではないかと考えます。

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