包囲光配列
ジェームズ・ギブソン(James Jerome Gibson)は、眼に入る光という限られた情報を用いて、人間がどういうふうに環境世界を捉えているのかを考察し、その手がかりとして観察者を包み込む環境からの光、包囲光配列(anbient optic array)とその変化に着目しました。
包囲光配列には、環境にある物体の面に現れる肌理(きめ texture)の密度の差(肌理の勾配 texture gradient)や対象の面を分ける縁(edge)があり、それらの変化によって恒常的な環境の構造(不変更 invariant)を知覚することができます。
また観察者が移動することで包囲光配列の変化が顕著になり、手前の面に隠された後ろの面の情報も知覚され、より正確に不変更が捉えられます。
下図はギブソンの著書「生態学的視覚論」で解説されている「窓のある部屋の中にいる観察者」の図解を若干改変して、ボタンをクリックすることで包囲光配列が切り替わるようにしています。
視点1、視点2、視点3のボタンをクリックすると、観察者が移動し、視界や縁(edge)および隅(corner)を結んだ線が変化して、見えなかった面が現れたり、逆に見えていた面が隠れる様子がわかります。
ダイアローグ・イン・ザ・ダーク
ダイアログ・イン・ザ・ダーク(Dialog in the Dark)は、完全に光が遮断された暗闇の中を、視覚障害者のスタッフが、参加者グループを案内し、その空間を体験させる施設です。
視覚を閉ざされた参加者は、聴覚・触覚・嗅覚などを頼りに、施設内の小川にかかる橋を渡ったり、カフェで飲み物を味わったりという体験をします。
この施設は、1988年にドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケ(Andreas Heinecke)の発案によって誕生し、美術館での巡回展示やフェスティバルの特別イベントなどで世界中を巡回したのち、最初の常設展示は 2000年4月にドイツのハンブルクに設けられました。それ以降、日本を含め多くの国で開催されています。
ここでは体験を通じて、視覚以外の感覚が、環境の構造や物の本質を理解するのに如何に役立っているかを知り、その大切さも学ぶことができます。
また後で振り返った時、歩き回り、お店の中で参加者どうし話し合ったことが、ひとつのまとまった空間構造の中での出来事として思い出します。
これは聴覚や触覚、嗅覚を使って、環境の不変更を把握していたということではないでしょうか。
https://did.dialogue.or.jp