第3章 アニメーション表現の可能性

No.38

文学・絵画での変形


文学・絵画での変形

映画やアニメーションが発明される以前からイメージの変化を楽しむ文化は世界中にあり、それらは言葉遊びや小説、絵画、演劇(人形劇)などでも行われてきました。
ここでは静止した平面のメディアの特性を生かしたメタモルフォーゼを取り上げて紹介します。

 

思い込みの絵本

 

絵本におけるメタモルフォーゼの例として、2017年度 武蔵野美術 大学視覚伝達デザイン学科 山口菜摘氏の卒業制作作品「思い込みの絵本」を紹介したいと思います。
この作品は仕掛け絵本の一種で、本というメディアの「めくる」という特性を生かして、意味のメタモルフォーゼが展開されます。
絵本の見開き、右ページの絵の一部分が切り抜かれていて、後ろのページの絵の1部分が見えています。この見えている部分はページをめくると次のページの絵の1部分となり、意味が変化して見えます。これは言葉が、文章の文脈(コンテクスト)によって変化する現象に相当しています。
作者の山口菜摘氏は、この仕組みを使って「思い込みの絵本」というタイトルで二冊の絵本を仕上げました。
実物の絵本をめくって見た方が一層仕掛けが生きてきますが、ここでは一応、めくる動作をボタンのクリックに置き換えてシミュレーションしています。
またこの本には、ページをめくった時に前のページの言葉が切り抜かれた穴から見えて、同じ言葉が別の文章の言葉になる仕掛けもありますが、ここではその言葉だけ色を変えています。
※ 下のサムネールをクリックしてご覧ください。

 
 
 
 

ロブ・コンサルヴェスの絵画

カナダ出身の画家ロブ・コンサルヴェス(Robert "Rob" Gonsalves)は、ダリやマグリットなどのシュールレアリスム絵画や、エッシャーのメタモルフォーゼする幾何学的な作品に影響を受け、自身の絵画の中で、独特のメタモルフォーゼを追求しています。
ここでは、YouTubeに上がっていたコンサルヴェスの一連の絵画を紹介したムービーを載せています。

※ ここでのムービーは、YouTubeにリンクして表示しています。YouTubeで削除されて表示されないことがありますが、その場合はご容赦ください。 
インフォメーション・アイコン

「メタモルフォーシスⅢ」

上記、M.C.エッシャー作「メタモルフォーシスⅢ(Metamorphosis Ⅲ)」1967-68年を取り上げ 、スクロールするムービーにして紹介しています。
白黒の市松模様が、様々なタイリング・パターンに変形していき、再び元の市松模様に戻って終わります。

ダブル・イメージ

一つの画面に描かれた絵が、二つの異なるイメージを喚起する絵画も、平面のメタモルフォーゼの一種として考えられるのではないでしょうか。
視覚のトリックとして多くの本で取り上げられていますが、ここでは17世紀の画家マテウス・メーリアン(Matthäus Merian)とシュールレアリズムの画家、サルバドール・ダリ(Salvador Dali)の作品を紹介しています。
下の矢印をクリックしてご覧ください。

「擬人化された風景-細長い男」

擬人化された風景 – 細長い男(Anthropomorphic landscape - elongated man)」
マテウス・メーリアン 1620-30年

ハイブリッド画像錯視

ハイブリッド画像錯視(Hibrid Image Illusion)は、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループによって開発され、人間が視覚情報を処理する仕組みの研究の中から生まれました
ここで紹介している画像は、マリリン・モンローとアルバート・アインシュタインという誰もが知っているキャラクターのイメージが重なったハイブリッド画像錯視の最も有名な作品です。
これはピントのぼけたモンローの顔とくっきりした線のアインシュタインの顔が合成されていて、近くから見ると、絵の細かい部分がはっきり見えてアインシュタインの顔になり、目を細めたり遠くから見たりすると細かい部分は見えなくなって、ぼやけたモンローの顔に見えて来ます。
これは、私たちの脳が、細部を認識する前に、まず低解像度でも全体を処理する性質があるからだと考えられています。

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