フェナキスティスコープの仕組み
No.01「フェナキスティコープと仮現運動」でも簡単に紹介しましたが、フェナキスティスコープは19世紀前半に発明された動く絵を作り出す世界で初めての装置です。
円盤上に並べられたポーズの違う絵を鏡に映しながら、回転する円盤のスリット越しに覗くと絵が動いて見えます。
これは非常にシンプルな構造ですが、そのシンプルさゆえに、簡易な玩具として人気を博し、現在も商品として売られています。
ここではその仕組みをシミュレーションした、インタラクティブなムービーで説明します。
フェナキスティスコープの造形例
フェナキスティスコープはたった10枚〜20枚の絵で動きを作るため、飛び上がったり走ったりというような、非常に単純な動きしか表現できません。
しかも円盤上に描くため、中心に近づくほど画面は小さくなり動きは描きづらくなります。
このように原始的で非常に不自由な装置ですが、円盤を回転させるだけで絵が動き出し、鏡に映すと円盤全体が見えるため、複数の絵がマンダラのように動きだす独特の面白さもあります。
ここでは、そのグラフィカルな造形美がどのような構造で生まれるのかを簡単に紹介しています。
円盤を時計回りに回転させた際、12個の動く要素を12本のスリット越しに見ると同じ位置に静止していますが、13本のスリットでは反時計回りに回転をはじめ、11本のスリットでは時計回りに回転します。
また中心点からの距離を変えることで上下に動くので、螺旋状に並んだ要素はだんだん近づいたり遠ざかったりして見えます。
要素とスリットの数の違いによる変化
フェナキスティスコープは、通常十数本のスリット越しに、鏡に映ったスリットの数に近い数の要素が動くのを眺めます。
例えば、12本のスリットのあるフェナキスティスコープを時計回りに回転させながら見た場合、30度(360÷12)の角度で等間隔に並べられた12個の要素は静止して見えますが、約32.7度(360÷11)間隔の11個では反時計回りに回転し、約27.7度(360÷13)間隔の13個では時計回りに回転します。
そこで、スリットと要素の数を変えた場合の見え方の変化を比べられるようにしてみました。
スリット数と同数の要素は静止し、スリット数よりも多い要素はフェナキスティスコープと同方向に回転、少ない要素は反対方向に回転します。
また、要素の数がスリット数のちょうど半分の場合、実際の要素数ではなく、スリット数と同じ数の要素が、同じ位置で静止して点滅しているように見えます。
理論的には当たり前なのですが、実際に見るまでは、私にはなかなか想像できませんでした。
フェナキスティスコープとゾートロープの違い
ゾートロープは、フェナキスティスコープから約2年後の1834年にウィリアム・ホーナー(William George Horner)によって発明されました。
スリット越しに覗き見ることで、見える絵が次々に置き換わり、動きのイメージを得ることができるという点で、どちらも原理的には同じ仕組みです。
ただ、ゾートロープは、スリット部分が立体的に立ち上がるという構造的な違いによって、鏡を必要としませんし、装置を取り囲む複数の人が覗き見ることができます。
またゾートロープは、帯状の絵を置き替えるだけなので、比較的簡単に別の動画を見ることができますし、フェナキスティスコープが逆三角形の画面に動く絵を描かなければならないのに対して、ゾートロープは直方体の画面に描くので作画も容易です。
しかし、フェナキスティスコープの方が持ち運びが簡単で、円盤状の絵が同時に動くことで、マンダラ的な動きの面白さが生じるというメリットもあります。