第1章 アニメーションの原理

No.13

フェナキスティスコープの仕組み


 

フェナキスティスコープの仕組み

No.01「フェナキスティコープと仮現運動」でも簡単に紹介しましたが、フェナキスティスコープは19世紀前半に発明された動く絵を作り出す世界で初めての装置です。
円盤上に並べられたポーズの違う絵を鏡に映しながら、回転する円盤のスリット越しに覗くと絵が動いて見えます。
これは非常にシンプルな構造ですが、そのシンプルさゆえに、簡易な玩具として人気を博し、現在も商品として売られています。
ここではその仕組みをシミュレーションした、インタラクティブなムービーで説明します。

フェナキスティスコープ(Phenakistiscope)

phenakistiscope

ジョゼフ・プラトーの発明したフェナキスティコープは、絵が描かれた面を鏡に写して、真っ黒な裏側の面に開けられたスリット越しに見るというものです。
左の画像は、目とフェナキスティコープと鏡の関係を表したものです。
中央の黒い円盤がフェナキスティスコープで、鏡には黒い円盤の裏側に描かれた絵が写っています。
目は黒い円盤に開けられた細いスリット越しに絵を見ています。

※ 下のムービーは仕組みを解説したものです。透明度ボタンをクリックすることで黒い円盤の透明度を変えることもできます。

 
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フェナキスティスコープとゾートロープの違い

ゾートロープは、フェナキスティスコープから約2年後の1834年にウィリアム・ホーナー(William George Horner)によって発明されました。
スリット越しに覗き見ることで、見える絵が次々に置き換わり、動きのイメージを得ることができるという点で、どちらも原理的には同じ仕組みです。
ただ、ゾートロープは、スリット部分が立体的に立ち上がるという構造的な違いによって、鏡を必要としませんし、装置を取り囲む複数の人が覗き見ることができます
またゾートロープは、帯状の絵を置き替えるだけなので、比較的簡単に別の動画を見ることができますし、フェナキスティスコープが逆三角形の画面に動く絵を描かなければならないのに対して、ゾートロープは直方体の画面に描くので作画も容易です。
しかし、フェナキスティスコープの方が持ち運びが簡単で、円盤状の絵が同時に動くことで、マンダラ的な動きの面白さが生じるというメリットもあります。

phenakistiscope
zoetrope

フェナキスティスコープの造形例

 

フェナキスティスコープはたった10枚〜20枚の絵で動きを作るため、飛び上がったり走ったりというような、非常に単純な動きしか表現できません。
しかも円盤上に描くため、中心に近づくほど画面は小さくなり動きは描きづらくなります。
このように原始的で非常に不自由な装置ですが、円盤を回転させるだけで絵が動き出し、鏡に映すと円盤全体が見えるため、複数の絵がマンダラのように動きだす独特の面白さもあります。
ここでは、そのグラフィカルな造形美がどのような構造で生まれるのかを簡単に紹介しています。
円盤を時計回りに回転させた際、12個の動く要素を12本のスリット越しに見ると同じ位置に静止していますが、13本のスリットでは反時計回りに回転をはじめ、11本のスリットでは時計回りに回転します。
また中心点からの距離を変えることで上下に動くので、螺旋状に並んだ要素はだんだん近づいたり遠ざかったりして見えます。

 
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フェナキスティスコープの造形例 解説

ここではフェナキスティスコープでの画像の動き方の違いが、どういう構造に由来しているのかを簡単に説明しています。

スリット数と画像の数

Image

エドワード・マイブリッジの連続写真を利用して、繰り返しの動きを作っています。
一番外側の「走る馬と騎手」は12枚の写真が並んでいます。その内側には11枚の写真で「走る人」が並んでいます。一番内側の写真は「オウムの羽ばたき」で13枚の写真でできています。
12枚のスリット(30度ずつ時計回りに回転)では、「走る馬と騎手」が同じ位置で動き、「走る人」は反時計回りに移動し、逆に「オウム」は時計回りに回転します。
13枚のスリット(約27.7度ずつ時計回りに回転)では、「走る馬と騎手」が反時計回りに動きだし、「走る人」は速度を増して、「オウム」が同じ位置で羽ばたきを繰り返します。
11枚のスリット(約32.7度ずつ時計回りに回転)では、「走る馬と騎手」と「オウム」が時計回りに動きだし、「走る人」は同じ位置で走る動きを繰り返します。
ここでは、スリットの数と円盤上に並んだ絵の数との関係を表しています。

要素とスリットの数の違いによる変化

 

フェナキスティスコープは、通常十数本のスリット越しに、鏡に映ったスリットの数に近い数の要素が動くのを眺めます。
例えば、12本のスリットのあるフェナキスティスコープを時計回りに回転させながら見た場合、30度(360÷12)の角度で等間隔に並べられた12個の要素は静止して見えますが、約32.7度(360÷11)間隔の11個では反時計回りに回転し、約27.7度(360÷13)間隔の13個では時計回りに回転します。
そこで、スリットと要素の数を変えた場合の見え方の変化を比べられるようにしてみました。
スリット数と同数の要素は静止し、スリット数よりも多い要素はフェナキスティスコープと同方向に回転、少ない要素は反対方向に回転します。
また、要素の数がスリット数のちょうど半分の場合、実際の要素数ではなく、スリット数と同じ数の要素が、同じ位置で静止して点滅しているように見えます。
理論的には当たり前なのですが、実際に見るまでは、私にはなかなか想像できませんでした。

 
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