授業ノート

世界アニメーション・フェスティバル
ヒロシマ-85
武蔵野美術大学
視覚伝達デザイン学科
下村千早
 
●視覚伝達デザイン学科のアニメーション教育
 視覚伝達デザイン学科のアニメーション教育を知っていただくために、武蔵野美術大学の構成、視覚伝達デザイン学科の教育、そのアニメーション教育の目的と内容を簡単に紹介する。

●武蔵野美術大学の構成
 武蔵野美術大学は、美術とデザインの二分野と大学院から構成されている。  美術は、油絵、彫刻、日本画から成る。
 デザインは、視覚伝達デザイン学科、工業工芸デザイン、空間演出(シニック+ディスプレイ)デザイン、建築デザインから成る。

●視覚伝達デザイン学科の教育
 視覚伝達デザイン学科の研究と教育の目的は、実用的なメッセージを美的な視覚表現によって形成し、それを人々にメディアを用いてコミュニケートすることである。
 現在の本学科の研究と教育は、印刷に関わるグラフィック・デザインの領域が大きな比重をしめている。
 本学科では、学生は1~2学年で共通の基礎教育を受ける。そして、最終の4学年では、四つの専門分野、すなわち、アドバタイジング・デザイン、エディトリアル・デザイン、映像デザイン、視覚環境デザインに分かれて教育を受ける。

●映像デザイン
 映像デザインに関する授業は、写真の基礎、写真のデザインへの応用、アニメーションの製作、短い実写映画の製作、音の製作とダビング、卒業制作などである。
 アニメーションの授業は、コミュニケーション・デザインの一科目として設定されている。その目的は、オウディオ・ヴィジュアルの基礎学習であり、アニメーション映画を制作することではない。
 映像デザインの卒業生は、コマーシャル・フィルム、産業映画、コンピュータ・グラフィックのプロダクション、その他種々のデザイン・プロダクションで仕事をしている。

●映像メディアの発達
 映画、テレビ、マス・コミュニケーションなどの映像メディアの革命的発達で、現代の私たちの日常生活は、映像文化によって支えられている。
 その中でも特に、記号の消費に象徴される都市文化は、映像を中心にした視覚記号群によって形成されている。
 視覚メディアの領域は、文字と写真に代表されるグーテンベルグ星雲から、エレクトロニクスとコンピュータをベースにする映像メディアの新しい星雲に移り変わりつつある。それは静的な視覚から、ダイナミックな視覚への移行である。

●視覚コミュニケーションの可能性とアニメーション
 私は、デザインに関る立場から、アニメーションの次の特長に魅力を感じ、デザインに吸収したいと思っている。
 それは、ダイナミックなメディア、生命化(アニメート)、実際の動きの表現、限り無い想像と空想の世界、時間の構成、ストーリーの構成と展開、音や環境とのシンクロナイゼーション、国際的な視覚言語などである。
 これらは、視覚コミュニケーション・デザインにとって、新しくそして多くの可能性に満ちた問題である。

●アニメーションの授業内容
「フィルム・デザイン」と呼ばれるアニメーション実習は、次の内容から成っている。期間は6ヶ月。
  • ①動きの基本的な学習、製作技術。
    • 時間と動き、自然な動き、
    • 動きは人や物に表情の豊かさを与える、
    • 線画と切り抜きの技術、
    • アニメーション製作のプロセス。
  • ②テーマを考える、簡単なストーリーの制作。
    • 人々に共通のテーマとは何か、
    • 表現のシンボル化、
    • 具体的テーマと対象の設定、ストーリーの構成、
    • 上映会と作品の相互批評、
●導入のための課題「自殺」
 この科目まで、平面的な表現に馴れ親しんできた大部分の学生にとって、アニメーションという異質な時間的表現には少なからず戸惑うようである。
 そこで導入段階として、まず各自に共通テーマを与える。そして、単純な線描の自画像のキャラクターを動かして数秒の簡単なギャグを作る作業から始める。ここ数年のテーマは「自殺」で、それは次の学習をするためにこのテーマが設けられた。すなわち、何らかの感情表現とそれに伴うアクションとそのリアクションを必要とすること、またこのような非日常的シチュエーションを設定することで学生の想像力を刺激し、ストーリー作りの訓練にもなることである。
 この作業をとおして一応の動きの原理を知り、絵コンテ作成からキャラクターデザイン、シート表作成、作画、撮影、映写、といったアニメーション製作において不可欠な工程を通過することである。

●主体的ヴィジョンの形成
 私は、私の学生に、アニメーションの制作やデザインの制作を通じて、次のことを期待している。
 現代の社会や出来事、世界の人々の生活、ホロンとしての自然、それらとの造形活動やイメージの創造との間の響きあいに感動すること。
 自分で学習し獲得した視覚的ヴィジョンを、現代の秩序(平和、環境、都市、地球家族、情報社会、、、、)の形成に積極的に用いること。

●上映アニメーション・リスト
  題名         制作者   製作年
 ①モアレ(Moare)ーーー吉川真理子 1978年
 ②S+Kーーーーーーーーー寺沢秀雄  1982年
 ③DINNER SHOWーーーーー塩崎美穂  1980年
 ④マネジ(Manage)ーー 渡邉三千成 1979年
 ⑤金の輪ーーーーーーー 石坂真吾  1982年
 ⑥途上の夢ーーーーーー 西本企良  1983年
 ⑦練習作品(アニメーションの基礎学習)

 
 
略歴
下村 千早 (Shimomura Chihaya)
1941年 広島に生まれる。
主に、デザイン教育と、デザインの基礎研究に従事する。
専門:デザイン基礎教育、視覚記号の記号学による研究、コンピュータ・グラフィック
現在:武蔵野美術大学教授
 

下村 千早(武蔵野美術大学 名誉教授)

 
MiwaTakayoshi
  • 1941年
    • 広島市生まれ
  • 1963年
    • 日本大学芸術学部美術学科卒業
    • 山脇巌教授からバウハウス・システムのデザイン教育を受ける。
    • 河野洋先生から日本で最初の情報美学の講義を受講する
  • 1965年
    • 東京芸術大学大学院美術研究科修了、M.F.A。
  • 1970年
    • 武蔵野美術大学造形学部産業デザイン学科商業デザイン専攻(現 視覚伝達デザイン学科)着任。
  • 1984年
    • 学部・視覚伝達デザイン学科教授、大学院・造形研究科教授となる。
  • 2011年
    • 武蔵野美術大学を退職。
 
 

専門研究分野:
情報デザイン(芸術情報美学、コンピュータ・グラフィックス、マルチメディア、インタフェース)
デザイン記号論(記号論、視覚言語、デザイン方法論)

 

研究テーマ:
《情報》を核心に、人間とコンピュータの対話性(インタラクション)の新視座から、芸術情報美学、情報デザインの思想、分野、方法を創造、実践する。

 

著書:
『講座・記号論-3:記号としての芸術』勁草書房 1982(共著)
『情報処理ハンドブック』昭晃堂 1987(共著)

 

論文・学会発表:
『コンピュータ・アート』《グラフィック・デザイン No.41》講談社 1971
『コンピュータによる図形情報変換システムおよび図形変換処理言語の設計・制作』など、武蔵野美術大学研究紀要および日本デザイン学会発表 1972-1978
『コンピュータによる図形情報の理論の研究と制作』など日本デザイン学会発表 1975〜1989
『デザインの記号論試論』(共著)など、武蔵野美術大学研究紀要および日本記号学会発表 1980〜1995
『情報デザイン(1)〜(6)(「モノのデザインから対話プロセスのデザインへ」など)』武蔵野美術大学研究紀要 1997〜2005など

 

作品・展示:
「コンピュータ・アート展」企画開催・展示デザイン、日本橋DICビル 1970
「国際コンピュータ・アート展」(通産省)、銀座ソニービル 1973
「Computer-Grafik; Bilder nach Programm-Kunst im elektronischen Zeitalter」(作家紹介)、DuMont出版 1984
「Computer Graphics - Computer Art」(作家紹介)、Springer-Verlag出版 1985
「第1回北京国際コンピュータ・アート展」作品展示・審査員・講演 1996
「Simulated Color Mosaic」Kawano + Shimomura 共作(コンピュータ・アート作品)カナダ・州立モントリオール現代美術館蔵 1995
「20世紀コンピュータ・アートの軌跡と展望ー現代アルゴリズム・アートの先駆者の作品・思想」企画開催・作品展示、多摩美術大学美術館 2006

展示カタログ表紙と下村先生の作品紹介ページ   ※ 下記アイコンをクリックすると拡大表示されます  
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「Ex Machina: Fruhe Computergrafik bis 1979」作品展示、Bremen市美術館 2007
「Hiroshi Kawano: Der Philosoph am Computer, アーカイブ開設記念展」(K研究会初期の作品〜コンピュータ・アート展 1970の作品・展示)、ZKM(アートとメディアの研究センター)、Karisruhe 2011など

 

その他:
1970-2000年、日本デザイン学会会員、日本記号学会会員、日本認知科学学会会員
1988-89年、科学技術庁宇宙航空技術研究所客員研究官
2003-04、Rhode Island School of Design 大学院(アメリカ)客員教授など

※ 上記経歴は「インフォメーション+セミオティクス+デザイン」より転載しました。
 
 
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下村先生とアニメーション教育

下村先生は1970年に専任講師として着任時、1年生のデザイン基礎教育と共に、粟津潔氏が開設したフィルムデザインの授業を引き継ぎ、3年次選択授業として独自のカリキュラムでアニメーションとその基本となる内容を教えておられました。
デザイン学科における映像の授業として、ここでのカリキュラムは、画像、動き、音の総合的表現であるアニメーション制作を通して、その技術を学ぶだけでなく、様々な映像や書籍資料にふれ、現代のメディア社会や新しい表現の可能性についての考えを深める内容になっていました。
当時の新しいアニメーションの紹介と共に、特別講師として、映画・美術評論家や現役のアニメーション作家を招いての講義も行われています。
※ 下記画像をクリックするとレジュメが拡大表示されます。
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授業カリキュラム例
1977年度 後期授業でのカリキュラム
1985年には、広島で開催された第1回 国際アニメーションフェスティバルでのシンポジウム「アニメーションの教え方、学び方」でゲストの一人として、視覚伝達デザイン学科でのアニメーション教育について説明されました。
先生の、現代に通じる映像・アニメーションについての考えがまとめられているので、大会で配布されたレジュメを紹介したいと思います。
※ 下記画像をクリックするとレジュメが拡大表示されます。
第1回 国際アニメーションフェスティバル 広島大会カタログと、シンポジウムで下村先生が使用したレジュメ

「インフォメーション+セミオティクス+デザイン」

2013年に出版された退任記念誌「インフォメーション+セミオティクス+デザイン(Information + Semiotics + Design)」は、記号論や情報美学、コンピュータ、マルチメディア、インタフェース、視覚言語、造形理論、認知科学、メディア論にわたる広範な分野を統合的に捉え、先進的な教育・研究活動を進めた下村先生の、主に情報デザインとデザイン記号論に関するものの一部をまとめて、紹介したものです。
具体的な教育内容や理論が、豊富な図解と写真で解説されています。
 
(この書籍は非売品ですが、ご希望の方はお名前・宛先・ご職業・ご希望理由等をご記入の上、下記アドレス宛にメールにてお申し込みください。
後日、送料着払いで武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科研究室より郵送させていただきます。)
メールアドレス: contact@killanim.com
 
「インフォメーション+セミオティクス+デザイン」ブックカバー(デザイン:下村千早)
 
 
Thinking Visually!
情報デザインのグラウンド
 
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上の図版は書籍の冒頭に掲載されていて、記号論と情報美学、コンピュータ、インタラクションに関しての説明を、下村先生自身のデザインでグラフィカルに展開したスケッチ群です。
色彩、形態、レイアウトを駆使して、美しくかつ分かりやすく解説しています。
※ 各アイコンをクリックすると拡大表示されます。
 
「私は、武蔵野美術大学の退任最終講義で、《退任展シリーズ:芸術情報革命/芸術情報革命に参加した先駆者の一人としてーNo.4》(2011.12.15)というタイトルでプレゼンテーションをおこなった。
 このスケッチ風のテキスト《Thinking Visually!:情報デザインのグラウンド》は、その講義の一部分で《芸術情報革命とは何か》として話した内容を補筆したものである。

 1960年頃、私は恩師・川野洋先生から日本で最初の《情報美学》の講義を受けて以来、《芸術情報革命のフロントラインに参加し、その創作活動を続けてきた。その活動は、《情報(インフォメーション)》とコンピュータに基づく、未知の芸術とデザインについて長年に渡る実践、研究、教育の試行錯誤であった。このスケッチ風ケキストの企ては、その試行錯誤、記号と情報の美学的な衝突と実験とは何だったのか、また、情報美学とコンピュータ思想のグラウンドについて、論理的に積み重ねるのではなく、コラージュ的出会いとスケッチ風な叙述の試みである。」(下村先生による解説)
 
 
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下村先生と情報デザイン授業

1991年、すでに下村先生は「映像デザインⅢB」という名称で情報デザインを扱う授業をされていましたが、視覚伝達デザイン学科のカリキュラム改革を経て、1997年、新たに3年生の授業として「情報デザイン」を立ち上げました。
この授業は、ユーザーテストやプレゼンテーションを学生自らがセッティングし、情報について考え、総合的なデザインを学ぶ、非常にユニークなカリキュラムが設定されていました。

《前期》
課題1「コミュニケーションと認知」:
情報について学ぶための導入部として、「話し言葉」「文字」「身振り」「地図」「映像」といった異なるメディアを取り上げ、実験とその分析を通して情報の伝わり方を考える。

課題2「インタラクション・デザインとユーザビリティ」:
デジタルカメラや音楽プレーヤーなど、学生の身の回りにあるIC機器から、ユーザビリティの観点から問題がありそうなものを取り上げ、実験を通して分析し、改善案も含めて学外でプレゼンテーションを行う。

経験レポート課題「誰のためのデザイン?」:
認知科学者D.A.ノーマンの「誰のためのデザイン?」を読み、そのデザイン思想を踏まえて、身の回りを観察し、問題のある人工物について改善案をレポートにまとめ、HTMLを使って授業のサイトにアップロードする。

《後期》
課題3「情報と社会とデザイン」:
二つのテーマ(A:Information Typography B:e-Learning)の中からグループで一つを選び、デジタル社会での文字情報や学習・教育システムの問題を具体的な例を探して考え、他の大学とネットでつないで、相互発表会を行う。

課題4「情報デザインをテーマにした自由課題」:
前3課題での学びを踏まえて、学生自身で自由なテーマを設定し、情報デザインのプロセスを踏まえて考案した、新たなデザインを制作・発表する。

サイト「VCD情報デザインをめぐって」

下村先生が退任後、授業を後藤吉郎と私(西本)が引き継ぎ、2020年まで更新しながら続いたサイトで、2019年度の具体的な授業内容が紹介されています。
※ 下記画像をクリックすると別ウィンドウで、情報デザインの授業内容を紹介するページが開きます。
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