音響効果の重要性
映像において、形や動きと同時に音響効果の重要性も際立っています。
カメラで捉えた映像が実際に肉眼で見た印象と異なるように、録音されたままの音は実際に耳で捉えた印象とは異なる場合が多々あります。また撮影時に、電車や飛行機の音、動物の鳴き声など、意図せぬ余分な音が収録されることもあります。さらに役者への演技指導や照明の工夫のように、監督の意図した効果を出すために様々に加工したり別の音と差し替えたりする必要も出てきます。
映像と密接な関係のある音の種類として、「効果音」「映画音楽」「台詞(せりふ)・ナレーション」があり、それぞれ映像との相乗作用で強い効果をもたらします。
さらに、ここでは触れませんが、現代では環境デザインとしての音への関心も高まり、ユニバーサル・デザインとしての音の重要性も指摘されています。
音響効果による印象の違い
私たちは
「ぱ」という音声を「か」と発音している動画を見ながら聞くと、音声だけで聞く時に比べて曖昧になり、「た」や「か」などと聞き取る確率が高くなります(マガーク効果)。このように私たちは環境を、映像や音、文脈など、意味を総合的に捉えて判断しています。
したがって映像でも、音響効果によって印象が違ったり強調されたりします。
ここでは同じ色と形の円がすれ違う時、交差する瞬間につけられた音によって印象が変わる例を紹介します。音が無い場合は曖昧ですが、「シュッ」という擦過音がつくとすれ違う印象が強くなり、「バン」という音がつくと衝突して撥ね返るように見えます。さらに一瞬火花の絵を加えると撥ね返るようにしか見えなくなります。
※サウンドのオン・オフボタンで切り替えてごらんください。
音響効果技師 木村哲人氏について
木村哲人(のりと)氏は1933年生まれの音響効果技師で、映画・テレビ・演劇分野で数多くの作品の音響効果を担当されました。
電気工学のほか効果音の歴史や国内外の音作りにも詳しく、それらの音響装置を研究し様々な装置を自作しています。また音響効果の重要性を伝えるべく、講演を行なったり学校の講師を務めたり解説書を著したりしています。
1970年代後半には特別講師として武蔵野美術大学でも自作の装置を持ち込んで音響効果の実演と講義をされ、当時助手だった私(西本)も音の重要性・深さに気づかされました。
音響効果の制作現場はずいぶん様変わりしていますが、撮影現場で録音された音を、なぜ新しく作った別の音と差し替えたり、加工を加えたりするする必要があるのかを考えることは重要で、木村氏の活動や指摘は非常に興味深いものだと思います。
◆ TVシリーズ「音効さん」 ◆
『音効さん』(おんこうさん)は、フジテレビで製作されたバラエティ番組です。フジテレビと東海テレビで放送され、フジテレビでは1993年10月から1994年3月まで関東ローカルの深夜番組放送枠『JOCX-TV2』で放送されました。
音響効果と映像のギャップを際立たせたバラエティ番組で、木村氏も出演して実際の音作りの解説もしています。
木村哲人氏は音響効果の仕事のほか、著作物や教育活動、テレビへの出演などを含めて、映像における音響効果の重要性について積極的に啓蒙活動を行なってきました。
ここでは木村氏の著書「音を作る-TV・映画の音の秘密」1991年と「〈キムラ式〉音の作り方」1999年から、木村氏が制作した装置の写真と解説文の一部をほぼそのまま引用して紹介します。
微妙な音の違いも表現するため様々な工夫をしていて、ここで取り上げた装置の他にも多くの方法があり、上記の本に詳しく説明されています。
※ 下の矢印をクリックしてご覧ください。
〈音作り風景〉
(上)足音を作る効果スタッフ。目はスクリーンをにらんでいる。
(中)効果スタッフが、戸の開閉音と足音を作っているところ。
(下)効果音スタジオと効果マン。スタジオにはあらゆる音を出す道具が置いてある。(作画:木村哲人)
「〜 現代の映画・テレビの音響効果は音の変形、二重三重に音を重ねる合成が普通になった。画面がパンすると、それにつれて音も変わる。画面外の音の使い方がうまくなった。シーンの変わり目にブリッジと呼ぶ短い音を入れる、などなど。 〜中略〜 では歌舞伎から受け継いだ道具を使っての音作りは、デジタル時代になって姿を消したのか、と言えばそうではない。画面を見ながら足音を入れ道具で音を作る作業は変わらない。それがさらに巧妙になり、音の変形や合成が、デジタル技術で容易になっただけである。例えば米粒を流して雨音を作るのは、音の素材であって、それだけでは使わない。水たまりに落ちる水滴、の木から落ちる水、木の葉に当たる雨、屋根の水しぶき等々を、場面にしたがって二重三重に重ねていく、画面が変われば音も変わる。家の中から空を見上げるシーンと、外を濡れながら歩くのでは当然、音は別である。さらに登場人物の心理を表現しなければ、音響効果とは言えない。不快感、明るい楽しい感じの音質、恋する二人が相合傘で歩く雨のシーンと、失業者がうつむいて歩く雨では、音質が異なるのである。音には画面に合った演出が必要なのだ。映画の音には主観的な表現と、客観的な表現が要求される。さらに遠近感の表現、これはラジオや演劇とは異なる、映画独特の音響効果だろう。 〜」
(「音をつくる」から抜粋)